「運送業の付帯サービスで保管も始めたい」「EC事業が伸びてきたので、自社で倉庫を持ちたい」「使っていない土地や建物を営業倉庫として活用できないだろうか」。物流業界の活況を背景に、倉庫業への新規参入を検討されている経営者様から、このようなご相談を数多くいただきます。
しかし、倉庫業は「空いているスペースの有効活用」といった手軽な感覚で始められる事業ではありません。お客様の大切な資産を預かるという公共性の高い事業であるため、倉庫業法によって厳格なルールが定められています。もし、必要な登録を受けずに営業を行った場合、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」という重い罰則が科される可能性があり、事業の根幹を揺るかしかねません。
この記事では、倉庫業登録と物流法務を専門とする行政書士法人の視点から、「倉庫業登録とは何か」という基本から、具体的な要件、費用、手続きの流れ、そして多くの事業者がつまずくポイントまで、網羅的に、そしてできる限り分かりやすく解説します。
そもそも「倉庫業」とは?【登録が必要なケース・不要なケース】
まず、どのような行為が「倉庫業」にあたり、登録が必要になるのかを正確に理解することがすべてのスタートです。
倉庫業の定義:「寄託(きたく)」がキーワード
少し堅い表現になりますが、倉庫業法では、倉庫業を「寄託を受けた物品の倉庫における保管を行う営業」と定義しています。ポイントは「寄託」という言葉です。いきなり法律用語が出てきて難しく感じるかもしれませんが、これは「お客様から『この荷物を預かって、きちんと管理・保管してください』と依頼され、それに対して責任をもって引き受ける」という契約を指します。
つまり、単に「スペースを貸す(不動産賃貸)」のではなく、「荷物そのものを預かり、その価値を守る責任を負う(保管責任)」のが倉庫業の本質です。この「寄託」に該当するかどうかが、登録の要否を判断するうえでの最大の分かれ目となります。
倉庫業に該当しないケース(登録が不要な例)
以下のサービスは、物品を預かるという点では似ていますが、「寄託」にはあたらない、あるいは法律で特別に除外されているため、倉庫業登録は不要です。
- 場所貸しサービス:駐車場、駐輪場、レンタル収納スペース、コインロッカーなど。これらは保管責任を負わず、あくまでスペースを時間貸ししているだけなので倉庫業にはあたりません。
- 他の営業に付随する保管:クリーニング店が洗濯後の衣類を一時的に預かる、銀行が貸金庫で貴重品を預かる(保護預り)など、主たるサービスに付随する短期間の保管は除外されます。
- 物品ではないものの保管:サーバーやデータを預かるデータセンターは、「物品」の保管ではないため対象外です。
- 運送契約に基づく一時保管:運送会社の配送センター(ターミナル)での、配送のための仕分けや積み替えといった一時的な荷さばきは、運送行為の一部とみなされ、倉庫業には該当しません。
【重要】運送会社様が特に注意すべきなのは、配送センターでの保管であっても、荷主と運送契約とは別に保管契約を結び、運送費とは別に「保管料」という名目で対価を受け取る場合は、「倉庫業」に該当する可能性が極めて高くなるという点です。請求書の名目だけでなく、事業の実態に即した判断が必要となります。
倉庫業登録に必要な「3つの絶対基準」
倉庫業登録を受けるためには、大きく分けて「人的要件」「物的要件」「管理的要件」の3つの基準をすべてクリアする必要があります。一つでも欠けていると登録はできません。
① 申請者(役員等)が欠格事由に該当しないこと【人的要件】
申請する法人やその役員が、法律で定められた欠格事由(登録できない条件)に該当しないことが大前提です。具体的には、以下のような事項が問われます。
- 申請者(法人の場合は役員全員)が1年以上の拘禁刑に処せられ、その執行が終わってから2年を経過していること。
- 過去に倉庫業の登録を取り消されたことがある場合、その取消しの日から2年が経過していること。
申請時には、役員全員がこれらの事由に該当しない旨を誓約する書面を提出します。
② 倉庫が「施設設備基準」を満たしていること【物的要件】
ここが倉庫業登録における最大の難関であり、専門家の力が最も問われる部分です。営業に使用する倉庫は、建築基準法や消防法に適合していることに加え、倉庫業法が独自に定める厳しい「施設設備基準」を満たす必要があります。最も一般的な「1類倉庫」の主な基準は以下の通りです。
- 使用権原:倉庫建物および敷地について、所有権や適法な賃借権を有していること。
- 法令適合性:建築基準法、都市計画法、消防法などの関係法令に適合していること。
- 土地定着性等:土地に定着し、屋根および四方の壁を有すること。(テント倉庫等も含まれる)
- 強度:軸組み、外壁、荷ずりは2,500N/㎡以上、床は積載荷重に耐える3,900N/㎡以上の強度があること。
- 防水・防湿性能:雨水の浸入や床面の結露を防止する措置が講じられていること。
- 遮熱性能:一定の断熱性能を有していること。
- 耐火・防火性能:建物の構造が耐火構造または準耐火構造であること等。
- 災害防止措置:危険物施設等に近接する場合、防火壁などの措置があること。
- 防火区画:倉庫内に事務所などがある場合、準耐火構造以上の壁等で適切に区画されていること。
- 消火設備:消火器等が適切に設置されていること。
- 防犯措置:開口部の施錠体制や警備システムなど、防犯上有効な設備があること。
- 防鼠措置:ねずみの侵入を防ぐ設備があること。
これらの基準を満たしていることを、各種建築図面や構造計算書といった客観的な資料を用いて、行政庁に証明する必要があります。
③ 「倉庫管理主任者」を確実に選任できること【管理的要件】
倉庫の火災防止や適切な管理・運営を担う専門家として、原則として倉庫ごとに1名の「倉庫管理主任者」を選任し、配置しなければなりません。倉庫管理主任者になるには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 倉庫の管理業務に関して2年以上の指導監督的実務経験を有する者
- 倉庫の管理業務に関して3年以上の実務経験を有する者
- 国土交通大臣の定める倉庫管理主任者講習を修了した者
【注意点】ここでいう実務経験は「営業倉庫」での経験に限られます。自社の製品や資材を保管する「自家用倉庫」での管理経験は、原則としてカウントされませんのでご注意ください。そのため、多くの方が講習を修了して資格を取得しています。
多くの事業者がつまずく「建築・立地の壁」という現実
前述の3つの基準の中でも、特にご相談が多く、手続きが頓挫する原因となりがちなのが、施設設備基準に関連する「建築」と「立地」の問題です。
- 用途地域の制限(都市計画法)
- 営業倉庫は、どこにでも建てられるわけではありません。都市計画法によって定められた「用途地域」によって、建築が厳しく制限されています。原則として、準住居地域を除く各種住居専用地域や、市街化を抑制する目的の市街化調整区域では、営業倉庫の登録は認められません。
- 建物の適法性(建築基準法)
- 建物が建築基準法に適合していることを証明する「完了検査済証」がない建物は、原則として登録申請ができません。築年数の古い建物や、過去に増改築を繰り返した建物では、この書類が存在しないケースが多く、これが致命的な障壁となります。
これらの壁は非常に高く、専門家による調査なしに乗り越えるのは困難です。だからこそ、物件を借りる、あるいは購入する「前」に、専門家による法務診断を受けることが、取り返しのつかない失敗を避けるための絶対条件なのです。
申請から営業開始までの流れと期間
倉庫業登録は、思い立ってすぐに始められるものではありません。特に、審査期間(標準処理期間)である約2ヶ月よりも、その前の準備段階に多くの時間を要することを理解しておく必要があります。
- STEP1:事前準備・要件診断(1ヶ月~数ヶ月以上)
事業計画の策定、候補物件の選定、そして最も重要な「物件の法適合性診断」を行います。ここで図面がない場合は図面復元、改修が必要な場合は工事も行うため、半年以上かかることもあります。 - STEP2:申請書類作成・行政協議(約1ヶ月)
診断結果に基づき、膨大な申請書類を作成します。並行して、運輸局や自治体の建築部局など、関係行政庁との事前協議を行い、申請の論点を整理します。 - STEP3:運輸局へ申請・審査(約2ヶ月)
書類を提出し、運輸局による審査が行われます。これが「標準処理期間」にあたります。 - STEP4:登録通知・登録免許税納付
審査が完了すると登録通知書が交付されます。その後、登録免許税(9万円)を納付します。 - STEP5:営業開始
倉庫寄託約款などを営業所に掲示し、倉庫管理主任者を配置して、営業開始となります。開始後30日以内に料金の届出も必要です。
このように、全体では半年から1年以上かかることも珍しくない、長期的なプロジェクトとなることを念頭に置く必要があります。
倉庫業登録にかかる費用
倉庫業登録には、国に納める法定費用と、手続きをサポートする専門家(行政書士等)に支払う報酬があります。
- 法定費用(実費)
- 登録免許税:90,000円
- 行政書士報酬の目安
- 新規登録申請サポート:660,000円(税込)~
※上記報酬額は、申請に必要な図面が揃っている場合の基本的な料金です。物件の規模や立地、図面の有無、用途変更や開発許可の要否など、案件の難易度に応じて変動いたします。必ず事前にお見積りを提示いたしますのでご安心ください。
難易度の高い倉庫業登録は、なぜ専門家が必要なのか
倉庫業登録は、数ある許認可の中でも特に難易度が高い手続きです。その理由は、倉庫業法だけでなく、建築基準法や都市計画法といった複数の法律が複雑に絡み合い、それぞれの専門知識と行政実務の経験が求められるからです。
私たち行政書士法人シグマが、多くの企業様から選ばれる理由はここにあります。
- ① 物件選定・契約前のリーガルチェック:倉庫業登録は、物件を借りた(買った)後で「登録不可」と判明するリスクが非常に高い分野です。当社では、物件契約前の段階から、都市計画法上の用途制限や建築基準法との整合性を徹底調査。お客様の投資リスクを未然に防ぎます。
- ②複雑な「基準適合」への高い調整力:倉庫業登録には、防火・防水・防湿・遮熱・耐荷重など、多岐にわたる「施設基準」を満たす必要があります。既存物件で基準に満たない箇所がある場合でも、行政窓口との粘り強い交渉や、代替案の提示、必要最小限の改修プランの提案など、登録完了まで並走する解決力が当社の強みです。
- ③ 全国対応と膨大なノウハウの蓄積:関東運輸局をはじめ、東北、中部、近畿、九州など、全国各地の運輸局での申請実績が豊富です。倉庫業登録は地域によって行政の「運用の癖」が異なります。全国対応だからこそ蓄積されたノウハウを活かし、イレギュラーな案件でもスムーズな審査通過を実現します。
まとめ:自己判断は危険です。まずは専門家の診断から始めましょう
倉庫業登録は、法律の条文と建物の図面、そして行政の運用を照らし合わせる、複雑なパズルを解くような作業です。一つでもピースが欠けていれば、完成することはありません。「たぶん大丈夫だろう」「なんとかなるだろう」という安易な自己判断が、数百万円、時には数千万円もの損失につながるリスクを孕んでいます。
行政書士法人シグマでは、Zoom等を活用したオンラインでの「無料簡易診断サービス」を提供しています。本格的に事業を始動する前に、まずはご自身の計画が実現可能かどうか、専門家の診断を受けてみませんか?ご連絡を心よりお待ちしております。
行政書士法人シグマでは、倉庫業登録や物流法務に関するご相談を承っております。自社倉庫の要件確認や手続きの進め方に不安がある方は、お気軽にご相談ください。