物流需要の急拡大を背景に、稼働率の低下した工場や郊外の大型店舗といった遊休資産を「営業倉庫」として転用(コンバージョン)し、新たな収益源にしたいというご相談が、不動産オーナー様や建設会社様から急増しています。
しかし、「工場も店舗も雨風がしのげるのならが、営業倉庫として使えるだろう」という安易な考えでプロジェクトを進めるのは非常に危険です。単に自社の物品を保管するだけであれば問題ありませんが、不特定多数の荷主(他者)から寄託を受け、保管料を収受する「営業倉庫」として倉庫業登録を行うには、建築基準法と倉庫業法という、二つの法律が定める非常に高いハードルをクリアしなければなりません。
この記事では、建設・不動産のプロフェッショナルである皆様に向けて、用途変更における法務上の重要チェックポイントと、事業性を損なわないための現実的な解決策を解説します。
ハードル1:建築基準法上の「用途変更」という行政手続き
まず越えなければならないのが、建築基準法上の手続きです。建物の用途を「工場」や「店舗」から「倉庫業を営む倉庫」へ変更する場合、多くは行政庁への確認申請が必要となります。
確認申請が必要となるライン
建築基準法では、特殊建築物(工場や店舗、倉庫はいずれも該当)への用途変更で、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超える場合、原則として「用途変更の確認申請」が必要と定められています。一般的な工場や店舗をコンバージョンする場合、ほぼ全てのケースでこの確認申請が必要になると考えてよいでしょう。
最大の障壁:「検査済証」の有無
この用途変更申請において、最大の障壁となるのが「検査済証」の存在です。検査済証は、建物が建築当時に適法に建てられたことを証明する唯一無二の公的書類です。もしこの検査済証が存在しない場合、既存の建物がそもそも適法であることの証明ができないため、用途変更の確認申請を受け付けてもらうこと自体が極めて困難になります。古い建物ほど、この問題に直面するリスクが高まります。
ハードル2:倉庫業法が求める特有の「強度」の壁
仮に建築基準法上の用途変更手続きの見込みが立ったとしても、次に倉庫業法が定める、さらに厳しい物理的な基準が待ち構えています。
【よくある誤解】
「あの工場では何トンもある重い機械を置いていたから、床の強度は十分だろう。」
【知っておくべき事実】
その認識は、多くの場合、通用しません。倉庫業法(最も一般的な1類倉庫)が求める強度の基準は、以下のように明確な数値で定められています。
- 床の強度:3900N/㎡(約400kg/㎡)以上
- 壁の強度:2500N/㎡(約255kg/㎡)以上
店舗はもちろんのこと、比較的軽作業が中心だった工場では、この基準を満たしていないケースが少なくありません。特に床の強度基準を満たすことは難易度が高く、床のスラブを増し打ちを行うなどの大規模な補強工事が必要となり、数百万~数千万円単位の追加コストが発生する可能性があります。特に、賃貸物件として転用を考えている場合、この改修費用を誰が負担するのかという問題が生じ、プロジェクトの採算性を根底から揺るがしかねません。
シグマの解決策:建築・法務連携による「事業性診断」
私たちは、単に「法律上できる・できない」を判断するだけではありません。倉庫業登録取得に向けた一級建築士の方に参画していただき、プロジェクトが「事業として成り立つか」という視点から、以下のステップで多角的な診断を行うことをご提案しています。
法適合性の診断
検査済証が社内に保管されていない物件であっても、すぐに「不可能」と判断するわけではありません。建築当時の法令や図面を精査し、その建物が完了検査を受けた物件なのか、それとも完了検査を受けていない物件かを整理します。前者であれば、自治体より、台帳記載事項証明を取り寄せて、行政と協議しながら倉庫業登録申請の可能性を探ります。
概算コストの試算と事業性判断
法適合性の診断と並行して、倉庫業法の基準を満たすために必要となるであろう改修すべき項目をお伝えします。この項目を基に、協力していただける一級建築士さんへご相談ください。「用途変更の確認申請費用」+「構造補強や消防設備等の改修工事費」が、想定される賃料収入や事業収益に見合うものか。この事業性判断に基づき、「プロジェクトを推進すべきか」「あるいは撤退すべきか」という経営判断をしていただきます。
成功事例:工場から営業倉庫への大規模コンバージョン
【案件概要】
東北地方にある、延床面積12,000㎡の元工場。土地・建物を所有する事業者様が、自社事業の転換に伴い、建物を「営業倉庫」として活用したいとのご相談でした。【解決策】
自社所有物件であったため、事業者様は大規模な改修投資を行う経営判断をされました。プロジェクトは、建設会社様が「用途変更の確認申請」を担当し、私たちが「倉庫業登録申請」を担当するという役割分担で進行。弊社は、倉庫業法の観点から改修設計図をチェックし、運輸局との事前協議を重ねました。建設会社様による用途変更の完了と同時に、倉庫業登録の申請を提出。両者が緊密に連携することで、無駄のないスケジュールで登録を完了させることができました。【ポイント】
この事例が成功した最大の要因は、クライアントが自社所有物件に対して明確な投資判断を下せた点にあります。これが賃貸物件であった場合、オーナー様の深い理解と協力がなければ、同様のプロジェクトを成功させるのは極めて困難だったでしょう。
まとめ:安易なテナント提案をする前に、まず「法務診断」を
「この空き工場、倉庫業者に貸せるんじゃないか?」——その提案をする前に、一度立ち止まってください。「借りた後で登録できないことが判明した」というのが、テナント、オーナー、そして仲介・管理会社様にとっても最悪のシナリオです。
行政書士法人シグマでは、建築・不動産のプロである皆様からのご相談を歓迎します。お手元の図面や建築確認済証をもとに、「この物件は倉庫業登録の取得は可能だろうか?」を診断する無料簡易診断も承っております。クライアントへの提案前に、まずは専門家によるセカンドオピニオンとしてご活用ください。
行政書士法人シグマでは、倉庫業登録や物流法務に関するご相談を承っております。自社倉庫の要件確認や手続きの進め方に不安がある方は、お気軽にご相談ください。